「やった! ねえちゃんより身長高い~!」
「えぇっ!? そんなぁ…」
「だってオレ、成長期だもん!」
小さいフレデリックとレナが背比べをしていた。あの様子からすると、とうとうレナは身長を追い抜かされたようだ。しかし年下である小さいフレデリックに身長が負けていることがレナにはまだ納得がいかないようだった。
「うぅ…私だって、身長伸びるもん。すぐにフレディに追いつくんだから…」
「冥使は覚醒した時から身体の成長が止まります。…だから身長はもう諦めることですね、レナ」
「えぇっそうなのアーウィン!? うー…じゃあ私ずっとこのままなんだ…」
小さいフレデリックは複雑そうな表情で落ち込んでいるレナを眺めていた。何か言い返すだろうかと思ったが、結局何事もなかったかのようにまたへらりと笑顔を浮かべるのだった。何か思い付いた顔でレナの横へと向かう。
「ねえちゃん、ちょっといい? じっとしててね」
「え…なぁにフレディ、…きゃあ!?」
小さいフレデリックはそのままレナを抱き上げようと試みたらしかったが、バランスを崩し二人とも地面に転がる。
「……何をやっている」
「えー…っと! 身長がねえちゃんより高くなったから、力もそこそこに付いたかなーって思ったんだけど……。あはは、ねえちゃんお姫様だっこするにはちょっぴり足りなかったみたい」
「酷いわフレディ、私が重たいって言いたいのねっ!」
「ちっ違うよねえちゃん、違うって!」
……おそらくあいつなりにレナを励まそうとしたのだろう。結果は…世辞でも成功とは言えない出来ではあるが。
五月蝿く喚く二人を、離れている場所からぼんやりと眺める。
親友の生き写しのような顔をした末裔の子供と、親友の一部から造り出された子供。偶然とはいえこうして目の前にいる二人を見ていると不思議な気分になる。
どちらもフレッドと繋がっている筈なのに、そのどちらもフレッドではない。
ならば、今まで私が求めていたフレッドとは、一体何だったのだろうか…。
「私より背が高くなっちゃうし私のこと重いって言うし…! もうフレディなんて嫌いっ!」
「だから誤解なんだよ! もう、オレはそういう意味で言ったんじゃなくてね……」
……やはり、どちらもフレッドとは似ても似つかない。
……なあフレッド。
私はただ、お前に一言言いたかっただけなんだ。
その為の手段はひとつしか見えなかったから、私はそのひとつに全てを賭けた。
……だが、どうやらそれも無駄な努力だったようだ。
姿形をいくら似せてみたところで、それは私の求めていたフレッドではないのだと頭では分かっていたつもりだったのに、諦めきれない想いがひたすら私を突き動かしていた。もしかしたら…、という可能性にずっと縋り続けていた。
そのわずかな可能性も、こうして崩されてしまった。
この子供たちが、それらが如何に無意味な行為であったかを証明してしまったんだ。
「…フレッド、」
親友であったお前はもう、何処にもいないんだな…。
私はようやく、その事実を受け入れることが出来る。
だから再び眠りについたお前の為に、祈りを捧げよう。
そうして行き場のなくなった想いと共に彷徨いながら、道標をなくし途方に暮れながら、私は、それでも生きていくのだろう。
…これからも。
命がある限り、前へ。
