私はゆっくりと目を覚ます。
もともと私たち家具に“睡眠”なんて概念はないのだけれど。
もぞもぞと布団から抜け出し、眠たい目を擦る。
横で寝ている彼女の姿を見て、私はこれが夢ではなかったのだと心から安堵した。穏やかに呼吸を繰り返している彼女の頬を包む。額をこつんと合わせるような仕草をしてみても、私には熱を感じることはできないけれど。
「縁寿さま……」
ずっと私と一緒だったから、怖い夢なんて、見ませんでしたよね?
私の声が縁寿さまの耳に届いたのかは分からない。愛しいその髪を撫でようと手を伸ばしても、今の私にはその一房でさえ掬い取ることができないのだから。
…まだ、魔力が足らないから。
私だけが唯一縁寿さまのお側にいることを許された。私だけが縁寿さまにお仕えすることができる。
“睡眠”という概念さえも、なかなか寝付けない縁寿さまの為に、私が手を繋いで一緒に寄り添って眠れるように縁寿さまが私だけに与えてくださったもの。
それだけでも至福を感じられるはずなのに。私はまだ、まだまだ満たされていない。
どうせ呼び出されるのなら、私たち姉妹は7人一緒がいい。
でも、縁寿さまといちばんの仲良しは私で。
そして叶うなら、縁寿さまの全てを一人占めにしてしまいたい。
まだまだ。
他にも、たくさん。
縁寿さまの体温だとか、縁寿さまの匂いだとか、縁寿さまの肌の弾力だとか。
それをいちばん最初に知るのは私がいい。そして、他の誰も教えたくはない。
私は彼女のぬくもりを少しでも感じたくて。今度はすり抜けてしまわないようにと、そっと、優しく抱き締めた。
その時甘い香りが鼻腔をくすぐった気がして、思わず手が出てしまった。
「縁寿さま、」
縁寿さまの白い首筋に口づけ歯を立てる。血は出ない。けれど私は、私が首筋から顔を離したとき、そこにくっきりと赤い跡が残っている様を想像して、せめて歯形だけでも縁寿さまのお身体に残せたらいいのにと、今日も考える。
「………ん、」
その時縁寿さまがわずかに身動ぎして、寝返りを打った。
当たり前だけど、縁寿さまの首筋は白いままで、少し寂しい。
でも。
それが叶わないならせめて。
あなたが目覚めてからいちばん最初に瞳に映すのが、どうか私であってほしい。
そしていちばんに私に「おはよう」と声を掛けて。
笑いかけてほしい。
縁寿さまが起きるのを今か今かと待ちながら、私はそっと、彼女のシャツの第二ボタンに触れて微笑んだ。
**をください。
あなたの**を私にください。
そうしたらせめてあなたは私だけを見てくれるのかしら?
そうでないのなら、せめて私が優しく抉ってあげる。
