もそもそとシーツをかき集めて身体を包む。隣から「ミノムシみたいですぜ」なんて声がした気がしたが、縁寿には届かない。縁寿はただ素肌に青黒い痣を見つける度に眉を潜めながらシーツから身体が出ないよう身体を小さく折り畳むことに執心していた。天草は目を細め、じっとその作業を眺めていた。
「今さら隠すこともないでしょうに」
「……………嫌なものは嫌なの」
「そうですかい? 俺は全然気になりませんがねぇ」
「それはあなたが私に何の感情も抱いてないからだわ」
そんなことないですよ。
そう言うはずだった天草の口元からは短く息が漏れるだけであった。
沈黙の中で白い塊がもぞもぞと動いて膝を抱え込む。シーツの切れ目から赤い髪がちらりと覗くが縁寿の表情までは見えなかった。
「俺は…、縁寿さんのこと綺麗だと思いますがね」
うそばっかり。
くぐもった声が静かに遮る。
「だって私、天草が思ってるほどキレイじゃないもの。……私、汚れてしまったわ。何もかも。…………お兄ちゃんが、今の私を見たら…、こんなの縁寿じゃないって言うのかしら……私、いらない子なのかしら…?」
そんないつまでも帰ってこない家族の心配なんてしてどうすんですか。
言いかけた言葉を飲み込んで天草は曖昧に笑った。乾いた声がいやに耳につく。
「そんなわけないでしょう? 戦人さんにとって縁寿さんは、いつまで経っても、何があっても、縁寿さんのままじゃないですか」
「………ほんとうに? ほんとうにそうかしら? 私が四肢をぶつ切りにされて暗くて狭い場所に閉じ込められたとしても? 私が伯母さんたちから今思い出すだけでも寒気がするようなことをされていても? 身体中痣だらけで根暗で友達の一人も出来なかった私でも? 前みたいにかわいく笑えなくなった私でも? こんな…こんな私でも、お兄ちゃんは……、私を、好きでいてくれる??」
「もちろん」
ああ虫酸が走る。
この縁寿にも、今の自分にも。
全てを滅茶苦茶にぶち壊してしまいたい衝動を張り付けた笑顔の中に押し込めて、天草は静かに縁寿を包むシーツを外していく。
冷たい手のひらが彼女の濡れた頬を包んだ。
「そんな顔せんでください。たった一人の兄貴がたった一人の妹を嫌うワケがないでしょう?」
その言葉を聞き、涙でぐちゃぐちゃになった顔を天草の服に押し付け、縁寿は泣き続けた。
天草は何も言わずに泣きじゃくる縁寿の頭を撫で続けた。
Don’t Cry Baby
(その涙は僕の為なんかじゃないくせに)
縁寿はやがて泣き疲れて眠りについた。力なく寄りかかったままの縁寿をもう一度ベッドに寝かし、天草は泣き腫らして赤くなったその目元に唇を落とす。
「…………」
それは穏やかな寝顔であった。
…君は今日も今日とて、夢の中で違う誰かの背中に縋るのだろう。
彼女の口から紡がれたその名前に、天草は静かに瞳を閉じた。
