「カラスって、どきどき、人を馬鹿にするように鳴くわよね」
上空を飛び去っていくカラスを見詰めながら、縁寿はぽつりと言った。同じく黒点をなんとなく追いかけていた天草が、それに答える。
「……そうですかね。案外、そう思ってるのはお嬢だけかもしれませんよ?」
「どういう意味?」
「お嬢がそう思ってるからそうとしか聞こえないだけで、実際カラスは全然違う意味で鳴いてるのかもってことです。ホラ例えば……“寂しいよう、お母さんどこに……うぐっ」
縁寿はあからさまにムッとした顔つきで天草を小突く。天草が痛いです、と言ってへらへらと笑う反応に対して余計顔つきが険しくなるだけだった。
「気持ち悪い裏声で喋らないで頂戴」
「ヒャハ、まあそう怒らずに。そうそう、どこぞのカラスは“Never more”と鳴くそうですぜ」
「それこそ思い込みだわ」
「……へぇ、どうして?」
「だって、そんな訳ないじゃない。そんなの、聞いた人間が勝手に都合良く解釈してるだけ」
言い切った縁寿を、天草は満足そうに眺める。
「……つまりは、そういうことですよ」
そして、黒点の消えた空をもう一度見上げた。
日が、沈もうとしていた。
「? 何か言った?」
「いーえ、何でも!」
