「あら、ウェイン」
どうしたの、と掛けた声は届いていないのか、だんまりを決め込んだまま彼はカウンターの席に着いた。真新しい黄色いパーカーを居心地悪そうに目深に被る姿がどこか初々しくて思わず笑みがこぼれる。
「ここでの生活も、少しは慣れてきた?」
返事はない。
「せっかくだから、頑張ってる君に、お姉さんが何か奢ってあげる。何がいい? そういえば牛乳って、冷蔵庫に入ってたかしら……?」
ガキ扱いすんじゃねえ、とひとしきり吠えた後、彼は小さく酒、と呟いた。思わず賑やかに冷蔵庫を漁る手が止まった。正確な年齢は知らないが、まだ幼さの残る顔立ちからは彼が成人しているとは思いにくい。普段の生活を見ていても、酒を好んで飲むような性格でもない。大方仕事仲間の誰かに未熟であることをからかわれたのだろう。
「……ませたお子ちゃまですこと」
若かりし自分を少しだけ思い出し、むず痒い気持ちになる。
どうぞ、と差し出したグラスに注いだワインレッドを、ウェインはまるで何かを決意するように、食い入るように眺めている。
同じものを自分のグラスにも注ぎ、口をつけた。それを見て、ウェインも勢いよく飲み干す。
「これ、ブドウジュースじゃねえか!」
げえ、と舌を出して甘さに呻く様はまるで犬のようだ。騙したわけではないが、気持ちのいいくらいに予想通りの反応をされると、つい、悪戯心が芽生えてしまう。おかわりもあるわよ、とすかさずボトルを傾けようとしたが全力で拒否されてしまった。
「お酒が飲めるようになることだけが、大人になるってことじゃないのよ」
彼には、お酒よりもブドウジュースの方がよっぽど似合っているような気がした。
