星空に向かって手をかざす。
星を掴むことは出来ないけれど、こうして、手をかざすと、まるで空に溶けていくような、そんな感覚になる。
…ホラ。
かざした手がゆっくりと溶けていく。
同じ空になる。
それはあたたかくて、心地よくて…いっそこのまま溶けてしまえばいいのにとさえ思えた。
「…っ、ルーク!」
呼び声に、引き戻される。静かに振り返れば、泣きそうな顔をしたガイと目が合った。
ゆっくり微笑むと、ガイは何も言わずに俺を抱き締めた。抱き締める力が強くて、少し痛い。
「…どうしたんだよ、ガイ」
そう言って、ガイがいつもするみたいに少しおどけてみた。けれど、ガイの顔はさらに歪んで、今にも泣き出しそうで。
こんなに弱気なガイなんて、今まで見たことないのに。俺は一体どうしたらいいんだろう…。
「……消えてしまうのかと思った」
俺の肩に顔を埋めて、細く、くぐもった声でガイは言う。
「……また、お前が消えてしまうのかと思ったら、…怖かった。…目が覚めて、そしたら、まるで夢だったかのようにルークが消えてしまうかもしれない、って。思ったら…怖くなった。……ルーク、もう…消えないでくれ」
俺を、置いていかないでくれ。
ガイの口から、小さく紡がれた言葉。
「………うん」
今の俺には、頷くことしかできない。だって、それがガイを安心させてあげる、いちばんの方法だから。
「俺は、ここにいるよ。…ホラ」
そう言って、両腕をガイの背中に回す。
そして、ガイがいつかやってくれたみたいに、ぽん、ぽん、と優しく背中を叩いた。
「…ルーク?」
「こういうの…俺が泣いてたときとかに、よくやってくれただろ?」
ガイ、安心したか?って聞いたら、ほんの少しだけど、ガイは笑ってくれた。
「ルーク。…ずっと、一緒にいてくれ…」
俺を抱き締めたまま、ガイは静かに訊ねる。
「………それでガイが笑ってくれるのなら」
ああ…俺は、ちゃんと笑えているだろうか…。
それは、ガイがまた泣きそうな顔をしてしまったから、よくわからなかった。
微かに震えるその腕に、そっと手を伸ばす。…けれど、触れることは決してなかった。
だって、その約束を、……俺はきっと、守れない。
…ホラ。
また、溶けていく。
それがきれいだと、まるで他人事のように、思った。
“ずっと、側にいるから”
それを眺めながら彼の耳元で囁いた言葉は、どんなに空虚なものであっただろうか…。
ガイ…。
…嘘つきでごめん。
臆病で、ごめん。
それでも、お前が俺を必要とするように、俺もお前が必要なんだ。
…だから、ごめんな?
