待ち合わせ

いつもの通学路を通り越して駅へ向かい、慣れない改札をなんとか通って、ガタゴト揺られて、何個めかの駅で降りる。普段なら使うことのない道のりはどことなく不安で、でもほんの少し、胸を躍らせた。ずっと握りしめていた切符がするりと改札に吸い込まれていく。てっきりまた切符が出てくるものと思い手をかざしてしばらく待っていたのが、何も出てこなかった。そういうものなのだと気づくまでにややあって、改札口でつっかえてしまったことに焦り慌てて後ろを振り向いたが、既に自分以外の人影はなかった。

ほっと胸を撫で下ろして、改めて目の前に広がる景色を見遣る。

蝉の声がじわじわと響く見知らぬ街。

まだ家を出て数十分ほどしか経っていないのに、随分遠くへ来てしまったんだなと、ぼんやりと考えていた。ズボンのポケットに入れたままのスマホがぶるりと震えた。そういえば、前の駅で『もうすぐ着く』とだけ送ったまま、それきりだった。どうやら、向こうもちょうど到着したらしい。

画面を確認しようとポケットに手を突っ込んだところで「翠くん」と少し上ずった声が聞こえた。幾重にも重なる蝉の声に掻き消されることなくまっすぐ届くこの声を、俺はよく知っている。

「鉄虎くん」

そう呟くと、彼は満足そうに微笑んだ。

「こっちッスよ」